OMOを始められないのには理由があった(前編):多くの企業がつまずく5つの要因
オンラインとオフラインを融合することで、顧客体験を高め、売上を最大化させるためのOMO(Online Merges Offline)。OMOに取り組むアパレル企業が増えている一方で「何から取り組めば良いか分からない」といった悩みを抱える企業も少なくありません。そこで、OMOに取り組む企業がつまずきやすいポイントと、OMOの始め方について前編・後編に分けて解説していきます。前編となる本稿では「OMOでつまずきやすいポイント」について、お話していきます。
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OMOはハードルが高い?OMOの実現をさまたげる5つの要因
OMOを実現しようとすると、店舗とECのデータ統合、店舗スタッフによる運用方法、在庫の持ち方、売上のつけ方など、小さなことから組織全体で捉えなければいけないことまで、越えなければならない壁が様々あり、始めようにもハードルが高いと感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここではOMOの取り組みをさまたげる主な要因を5つ挙げていきたいと思います。
1.店舗とECをつなぐ業務設計ができていない
まず1つ目は、ECと店舗をつなぐ業務設計にあると考えます。
ECと店舗は、販売方法に対する考え方やロジックが異なります。例えば、店舗スタッフが接客した顧客がオンラインで商品を購入した場合は売上をECと店舗のどちらにつけるのか、店舗からECのお客様に商品を発送したら減った在庫はどうなるのかなど、店舗は、ECは、というように縦割りで業務を設計してしまうと、業務フローが分断され、利害関係の衝突が起きるケースも少なくありません。
OMOの目的は顧客体験の向上によるブランドまたは全社での売上向上。無用の衝突を避け、全社一丸での取り組みが必要です。顧客にとっても、店舗で購入するメリット、ECで購入するメリットいずれの場合もあり、その両面を適えるための顧客体験のストーリー作りとそのための業務設計が必要です。
2.システムの制約
OMOに取り組む企業にとって、ECと店舗の「在庫の一元化」はつまずきやすいポイントのひとつです。システムの制約が店舗とECの在庫を管理する上で妨げになることがあります。例えば、店舗で使っているPOSや販売管理システムは、一定時間ごとにバッチ処理で在庫を管理するのが一般的ですが、ECサイトの在庫はリアルタイムで管理するのが原則です。バッチ処理で在庫を管理している店舗と、リアルタイム性が求められるECの在庫管理を、どのようにつなぐのか。
OMOでは客注や取り寄せ、取り置きなど、お客様がいつでもどこでも買える環境を作るため、店舗で欠品していたらEC在庫から発送する、ECで在庫がない場合には、店舗在庫を取り寄せて発送するなど、機会損失を軽減し、お客さまにとって不利益が発生することを防ぐために、「在庫が今どこに、どれだけあるのか」を可視化し、その在庫を店舗・ECで流動化できるようにする、シームレスに動かすことができるシステムの検討が求められます。
3.各部門でバラバラなデータの持ち方
前章で「在庫一元化」の話に触れましたが、ECと店舗の在庫を一元化するには、在庫データや受注データなど、データの持ち方にも注意が必要です。
データの持ち方で意外とつまずきやすいものの1つが「商品コード」。同一のSKUであるにも関わらず、ECと店舗で別の商品コードを付与していたり、枝番号を付けたりしていると、商品データの一元化に手間がかかる場合があります。OMOに取り組む場合には、ECと店舗で販売する前提で、商品マスタのデータ整理も検討してみてはいかがでしょうか。
4.部分最適にとどまっている
OMOを進めると利益構造が変化するため、部門ごとの収益性に対する評価も見直さなくてはいけません。例えば、OMOによってECの販売量が伸びて、倉庫から宅配便の出荷が増えると、倉庫における物流コストが上昇することがあります。その際、物流部門が部分最適で利益を追求し、人件費削減など無理なコストダウンを図ると、物流体制にひずみが生じて出荷ミスが増えてしまうなど弊害が起きることもあります。
1つめの課題でも取り上げたように、OMOを推進する上で各部門が縦割りの業務を続けていれば、歪みも出て、OMOの推進が鈍化してしまいます。OMOを進めていく中で生じる様々な変化を、どう捉えて対処していくのか。これは部分最適(各部門)では解決できません。関連部門を横串し、全体最適で考える必要があります。
そのためには、OMOの推進に合わせた組織体制や人事評価制度の見直しなど、経営層が陣頭指揮を取り、推進することも必要かもしれません。
5.プロジェクトを率いる人材、教育と育成
今まで挙げた4つの要因を解決に導くためには、牽引するプロジェクトマネージャーやリーダーの存在は不可欠です。ECと実店舗の融合に必要なことを理解し、全体最適の判断を下せるゼネラリストがいないと、OMOがつまずきやすくなります。現在、アパレルEC業界で活躍されている有名な方の中には、ECだけでなく店舗や物流なども管掌されている方もおり、コロナ禍を超えても売上を伸ばし続けています。
しかし、これからOMOに取り組もうと考えた時、ファッションに詳しく、ECやIT、店舗のことも理解している人材は希少であり、採用しようと思っても現実的ではありません。そのためには、遠回りに感じるかもしれませんが、ECや店舗、物流、システムなどを横断的に理解している人材を社内で育成することも重要になります。人材を育てるには、権限を付与し、挑戦と実践を行いやすい環境を作るという経営者の意思も必要です。
後編は本編で挙げた5つの課題をふまえ、OMOを始めるために何から取り組めば良いか、事例も交えてお話していきます。