アパレル業界トレンドレポート いよいよOMOが本格化、次の一手はどう打つべきか
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アパレル業界トレンドレポート いよいよOMOが本格化、次の一手はどう打つべきか

アパレル産業のEコマースビジネスは、大きく言えば第3ステージの本番を迎えていると言える。第1ステージはECモールへの対応、第2ステージは自社ECの構築と成長、第3ステージはネットとリアルの融合。つまり、OMO(Online Merges with Offline)の本格化だ。これまでの「店舗vsネット」の構図は、在庫の一元管理、顧客情報の統一、ショップスタッフによるデジタルへの貢献などを通して「店舗でも、ネットでも」に移行しつつある。しかし、「店舗とかネットとか意識せずに買い物体験、ブランド体験を提供し、顧客の生活を豊かにしていく」というOMO本来の姿に至るには、まだ大きな壁がある。この課題を全社で乗り越え、消費者への新しい価値を提供しつつ、自社、産業がどう成長していくのか、がカギになる。

ECは重要な販路に

 繊研新聞(22年9月22日付)によれば、21年度のファッションECのEC化率は19.5%。同年8月に発表された「令和3年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」(経済産業省)では衣類・服飾雑貨等の分野のEC化率21.15%で20%を超えた。ECはアパレル産業にとって重要で、成長率が一番高い販路になっている。
 そんなECだが、当初はほとんどの人が「ファッションがインターネットや携帯電話で売れるわけがない」と思っていた。そのなかで「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」などのECモールが登場。特に2004年12月、「ZOZOTOWN」がオープンし、当時の人気セレクトショップが相次いで出店したことから、ECに対するイメージが大きく変わった。第1ステージではこうしたECの可能性を感じたブランド、企業が、ECモールでの販売に取り組んだ。インターネット固定回線の高速化、スマートフォンの登場、通信回線の配信スピードの向上など、ECで販売するための環境が進歩したこともあり、市場でのシェアを拡大していった。

実店舗vsEC

 第2ステージではECモールの成長を見て、自社ECに取り組む企業が増加した。前述したようにECの販売環境がどんどん整ってきたことや、ブランド・アパレル企業の自社ECサイトを構築するベンダーや、商品のささげ(撮影・採寸・原稿)からBtoC物流までフルフィルメントサービスを提供するEC支援企業の支援もあり、自社EC事業は大きく成長していった。
 一方で店舗とECの対立が顕在化する。当時は自社ECを一つの店舗として捉えることが多く、既存の在庫や社内リソースをECに分配したため、ECの売り上げが増えるほど、店舗からすれば、「ECにシェアを奪われている」と反発が生まれた。実店舗では、それまで成長を支えてきた商業施設(SC)で店舗数が増加。激しい競争環境の中で、1店当たり売上高の伸びが鈍化する状況もあり、ECに売り上げが取られたと認識する人も増えた。
 消費者の購買行動も変化した。容易に購入できるECの便利さと、実際のサイズ感や色柄、素材感が分からないというECの不便さを理解し、ECと実店舗を使い分けするようになった。そして、実店舗で商品を見てECで価格を比較して購入したり、ECで探して店舗で確かめて買ったりといった“賢い消費者”が増えていく。ブランド・企業側にもECに取り組む理由があった。店舗とECの両方で買い物をする「併用客」は、店舗しか利用しない顧客より、店舗での年間購入金額が高いという傾向が分かったからだ。こうした消費行動の変化に対応するため、店舗とECの対立から相互送客・利用の促進が必要になっていった。

ショップスタッフがOMOで活躍

 第3ステージの大きな変化は「実店舗でも、ECでも」、という消費者の意識の変化とともに、アパレル産業でも「良質なブランド体験、買い物体験」を提供することでブランドのLTV(顧客生涯価値)を伸ばそうとする動きが顕著になったことだ。いち早く気が付いた経営者が率先して社内にECの重要性を発信したことや、物事の判断を「お客様が望んでいる事」に据えたことで対立の構図が変わっていく。
店舗ではショップスタッフがECに関わるようになったことが大きな転機になった。店舗とECの在庫の一元管理や、ポイントの共通化をはじめとする顧客情報の統一が進んだことを背景として、ポイントの共有化では会員証をスマホアプリに切り替える時にはショップスタッフが店頭でアプリのダウンロードを呼び掛けたり、ショップスタッフのコーディネート投稿がECの売り上げに貢献したり、店頭からショップスタッフがライブコマースを通じて接客するなど、デジタル上での活躍が目立つようになった。こうしたショップスタッフや店舗の取り組みを、企業が評価・報酬に反映させたことで、ショップスタッフの意識が変化し、OMOを推進する上で重要なきっかけになっていった。

コロナ禍で加速、OMOが本格化へ

 コロナウィルス感染が広がる前に第3ステージに入った企業は、コロナ禍で実店舗の多くが一時休業に追い込まれる中で、EC売り上げを伸ばし、全社売り上げの減少を和らげた。ショップスタッフは出勤できない状況でもコーディネート投稿を増やし、SNSなどを使い、ライブコマースに取り組むなどお客様に新しい買い物体験を提供した。コロナ感染のようなパンデミックや、地震、気候変動で長期間、実店舗が営業できない事態は今後も起こり得るだろう。コロナ禍で体験したECの使い勝手、便利さ、そして物足りなさは消費者にしっかり残っている。
 今後は「店舗でも、ECでも」から、OMOの本来の意味である「融合」が本格的に、そして多角的に進むだろう。店舗受け取り(BOPIS:Buy Online Pick-up In Store)や来店ポイントのような実店舗の情報の活用、生産・予約システムを含めたMD計画、ECや店舗で獲得できるデータの活用が広がっていくだろう。OMOが進むことで、ECサイト上で在庫のある店舗に商品を取り置きしてもらい、試着してから店舗で購入したり、ECサイトの欠品を在庫がある店舗にオーダーし、代引きやオンライン決済で購入したり、店舗の欠品をECサイトの情報を使って店舗決済し、店か自宅に送付することが可能になる。つまり、どこにある在庫からでも複数の決済方法から選べ、店で受け取ることも自宅に届けることもできるという自由さを提供する。そのためには在庫のステータス管理や多様な決済に対応するなどの課題を店舗とECのシステムで連携し、オペレーションを確立する必要がある。販売スタッフの運用の容易さ、各種のデータ連携、物流センターの機能拡張など、全社として「お客様が求めるものに応える」意識が顧客体験価値の提供につながる。そしてシステムベンダーとのパートナーシップが欠かせない。

お客様とのスマートな関係を

 今後、店舗内のデータを取得し、お客様との関係をさらに良くしようという取り組みが進むだろう。ECサイトではサイト流入数、PV数、クリック数、購入履歴といったお客の行動データを取得・分析している。そこからレコメンド、メール配信、割引やクーポン発行など顧客に有益な情報を提供し、再来店を促し購入率を高めている。行動履歴のデータはCRM・マーケティング施策を企画・実行しEC売り上げを高めるために不可欠だ。しかし現状では、店舗においてこれと同様のデータを取得することは難しい。
これを実現するために、店舗ではAIカメラやビーコン、Wi-Fiなどのセンシング技術を導入し、スマホのブルートゥースやRFID、QRコードを使うことでデータを取得・分析し、CRMに活用しようという動きが出始めている。店舗前通過人数、来店人数、購入者数、アプリ会員数などを取得して、流入率、購買率、会員比率などを分析し、販促に活かそうとする取り組みだ。会員がいつ来店し、ショップスタッフの誰が接客したのか、試着した商品とその購買率なども知ることが可能になる。こうしたデータをもとに、来店ポイント、雨の日クーポン、タイムセールなど個別店舗ごとに施策を実施したり、スタッフから店舗で試着した商品のコーディネートアイテムをメールで紹介したり、ECサイトのカゴに入っている商品を店舗で試着してもらったりと、よりスマートな接客、顧客との関係を構築することが可能になる。

部分最適から全体最適へ

 こうした取り組みを実現するためには、店舗、EC、商品企画、ディストリビューター、物流など様々な機能、要素を組み合わせ、顧客へサービス提供していかなくてはならない。各所、各部での改善も必要だが、「お客様のためにどういう価値を提供するのか」といった意識を統一し、オペレーションの齟齬を無くし、運用のしやすさなどを突き詰める必要がある。ツールやシステムの機能を組み合わせ、利便性や安定性だけでなく、ブランドと一緒に価値提供に取り組めるベンダー選びが重要になってくる。
 今後は、誰もやったことのないプロジェクトを実行する第3ステージの本番になる。何が正解かもわからない中、課題に対する仮説を実行し、その結果から学び、新しい価値の提供を実現させていく。素晴らしい顧客体験の提供のために、各所・各機能の部分最適化から、全社が連携しあう全体最適化へ。これがDX(デジタルトランスフォーメーション)として、ブランド・企業の価値を高めていくだろう。


執筆:窪田勉
ビーリレーション代表。ファッション・アパレル産業とITを結ぶ仕事に従事する。前職の繊研新聞社で32年間、編集記者、営業を担当。その実績を生かし、現在も同社と一緒に紙面・特集企画、セミナー事業などを展開する。その他、IT企業の広報・営業支援、執筆活動、業界団体や私的業界グループなどで講演、大学での特別授業を実施。EC・DXに関連した活動を続けている。

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