流行るものって何だろう。小売業の未来の拓き方
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流行るものって何だろう。小売業の未来の拓き方

TSUTAYAの創業者であり、現在は株式会社AMSの代表取締役社長を務める村井眞一。小売業界での40年にわたる自身の経験を踏まえて、アパレル業界の課題である過剰在庫の問題を乗り越え、小売業の未来を拓く方法を語ります。

機会損失を恐れるあまり 過剰在庫、大量廃棄が発生

私が始めたTSUTAYAがスタートした時代は80年代でした。その頃流行っていたのはユーミンやサザン、洋楽だとマイケルジャクソンやホイットニーヒューストン、デュランデュランなどでしたが、同じ楽曲を仕入れても他店と変わらないので差別化にはなりません。

当時はあまり売れていなかった尾崎豊やチャラ、洋楽ではデッドオアアライブやマイアミサウンドマシーンなど探して聴いてみて、これはと思うものは大量に仕入れました。映画でもシュワルツェネッガーやトムクルーズの映画ではなく、ニューシネマパラダイスやショーシャンクの空に、テレビ映画のツインピークスなど小粒な作品を探していました。それでも良い作品は流行るのです。変に大きなプロモーションもせず、有名な俳優も使わずとも売れるものは売れます。それを見つける力さえあればなんとかなります。

顧客は面白い作品や良い音楽を探しています。それをきちんと提案すれば、喜んでお金を払ってくれます。しかし一番馬鹿らしいのは、せっかく借りたり買ったりするつもりで来店して頂いても、その時に在庫がなく提供できないことです。これはお客様も残念ですが、商売している側は売上が上がらず死活問題です。しかしそんな課題は21世紀になっても依然として解決されていません。アパレル産業では、そんな機会損失を回避する為に大量生産して必要な量の2倍以上を市場に投入してきました。それが原因で大量廃棄を生み、二酸化炭素排出によって温暖化の一因になっています。機会損失が怖くて商品を山盛りに揃えてしまう、このテクノロジーの時代においても昔と手法は変わっていない。それが現実なのです。

いくら持続可能な社会作りだとかSDGsなどと言っても、実態は真反対ことをしてしまっている企業が非常に多いのが現状です。当たる占いなど無いのと同様に、流行るものが分かって、その量まで当てられるAIなど少なくとも現時点ではあり得ません。全ての製品は売れると思って作られるのです。絶対に売れないと分かっているものなど作って製品化するわけがないのです。私がTSUTAYA時代にしたことは、ただ単に私の私観で私の好みでしかありませんでした。ですから、これも昔からある手法です。今や21世紀なんですから、もう少し科学的な手法はないものかと思います。

半製品でテスト販売 ヒットの確率を上げる

マーケティングとはまさにマーケット(市場)を作っていくということです。目の前にある製品にマーケットを作らなければ流行るものはできません。ですから製品に注目して、これはどうやったら売れるのかを数多くシュミレーションして少しずつ素早く試す、いわゆる“OODA”です。日本語にするとObserve見る→Orient判断する→Decide決める→Act行動する、これを何回か繰り返すのです。再度、見る→判断する→決める→行動する。これを高速で行い、軌道修正を繰り返すことです。今、2回OODAを繰り返しましたが、それを数秒で何回も行うのです。

このOODAはアメリカの空軍により提唱された意思決定と行動に関する考え方です。例えば敵機が来た際、それから計画を立てて、決定し、チェックし、アクションに移るというPDCAでは遅すぎるし、修正の回数が少な過ぎます。これはアパレルの自社製品でも同じことです。今から作る製品は誰にいくらで売るのか?その誰はどうしたら買ってくれるのかを何回もシミュレーションするはずです。しかし、自分で作るものは得手して“えこひいき”に売れると思ってしまいます。そんな自己肯定感だけでは他人は分かってくれませんし、きっと失敗します。

何故、その誰かがその製品を欲しいと思い、そして価格のハードルを乗り越えて買ってくれるのかを少量の半製品(Minimum Viable Product)を作って売ってみることが正道です。その時間単位はせいぜい7日くらいです。軌道修正して数回繰り返し、本当の製品を市場に送り込みます。いくらかコストはかかりますが、当てずっぽうで大量に市場に出して失敗するより余程ましです。こうしたやり方をシステム構築の場合にはアジャイルと言います。一度目の試作で正解が分かるはずがなく、何回か繰り返すことを前提とします。そして、その製品の成否が事業全体の成否になるので、事業責任者自身がこの作業の責任者であるべきで、製品作りを部下に任せることはあり得ないことです。

例えば、今年秋冬は紺のダブルのブレザーが流行っています。しかしこれは昨年以前から予兆はありました。実験したブランドも多々あったはずです。ここ数年女性でもトレンチコートやライダーズジャケットが流行っていました。女性の割には少しハードですが、柔らかいフェミニンなスカートと合わせたり、コーディネートを今までとは違う組み合わせで楽しんでいたと思います。ダブルの紺ブレも私たちジジイの時代とは違い、新しい組み合わせにチャレンジしています。カジュアルではジーンズにビビットなブラウスや、少し大人めなら明るい色の長めのワンピの上に羽織るように着るなどです。ですから、いきなりこの秋冬から出てきたのではなく、春夏で複数のブランドは少量でテストをしていました。

観察・判断・決断・行動 OODAで流行を捉える

先程も書きましたが、売れる物をピンポイントで当てたり作ったりすることはできません。しかし、方向性や大きな流れを作ることはできます。私の場合も最初は何度も失敗しましたが、徐々に当たるようになりました。ここでもOODAです。高速でOODAループを回すことでしか、売れ筋を見つけたり作り上げたりできません。しかし、アパレル事業の肝は流行るものを見つけ出すことではなく自社ブランドの定番を作っていくことです。定番を作り出し、売上高の30%〜50%まで持っていければ成功です。定番とは昔ながらの製品ではなく、自社ブランドらしさを見つけ、顧客にもヒアリングして見つけ出し、作り出すものです。それに加えて先ほどのOODAで売れ筋を見つけ、時流にあった製品を作り、これも売上高の30%〜40%までもっていければ成功です。後の10%ほどは、少量しか売れないかもしれないけれど、本当にMDが顧客に提案したい、自社ブランドを光り輝かせてくれる製品、トレンドの上を行き、憧れるようなデザインとクオリティの製品をチャレンジして作ることです。

OODAの創始者アメリカ空軍大佐ジョンボイドが引き合いに出すのは、宮本武蔵の五輪の書と孫子の兵法です。それは実戦もせずに計画を立てる愚を説いているのです。流行るものを作り上げたり、見つけ出したりすることは、まさに実戦しながら止まる事をせず、見て(観察して)考えて(判断して)決断し行動するのです。


執筆:村井眞一
神奈川県横須賀市生まれ。日本大学経済学部卒業。1979年株式会社鈴屋に入社。1983年増田宗昭、伊藤康史と共に「蔦屋書店」を創業。1985年カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社を共同設立。1998年株式会社ディレク・ティービー・ジャパン取締役就任。2000年ニューコ・ワン株式会社代表取締役に就任。2008年株式会社ISホールディングスISホールディングスを共同設立。2012年株式会社AMS代表取締役(現任)に就任。

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