物流視点で考えるアパレルの課題 経営者が物流現場に足を運ばない会社は危険(後編)
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物流視点で考えるアパレルの課題 経営者が物流現場に足を運ばない会社は危険(後編)

前編に引き続き、後編では物流視点で考えるアパレルの課題について、言及していきます。

“あなたの会社の社長、いつ倉庫に来ましたか?”
全世界が新型コロナウィルス感染症拡大のパンデミックから3年が経過しました。これにより生活は一変し、これまでの常識は通用しなくなりました。ファッション業界では、消費者ニーズの変化に対応できない企業は非常に厳しい状況に追い込まれています。ファッション業界が抱える4つの課題に対して、物流(ロジスティクス)の視点でどう乗り越えていくのか? その気づきを与えてくれるのが物流倉庫での在庫であり、そこからアパレル企業のサプライチェーンにおける統合が見えてきます。

ファッション業界を裏で支える物流

物流はこれまでアパレル企業において企画・販売と言ったコア業務とは遠く離された部署であり、ノンコア業務としてアウトソーシングされてきました。物流はコストセンターとして扱われ、委託物流費の請求書には目は通すものの、アウトソーシング先に丸投げで、その実態まで把握している経営層はどれだけいるのでしょうか。

こんな話を聞いたことがあります。そのアパレル企業に滞留在庫について質問すると昨年よりも在庫は圧縮されていると回答がありました。それは財務諸表にある流動資産である在庫金額が昨年よりも減っているため、そう判断されたのですが、実際に倉庫には昨年以上の在庫が溢れていました。その原因のひとつが持ち越し商品の商品原価の見直しによる評価損でした。在庫金額では昨年よりも減ってはいるが、在庫量そのものは増えていました。

それ以外でも、商品原価を下げるために仕入れ先や原産国を変えたことで、商品品質が悪くなり、不良品在庫が増えて、物流倉庫の隅で放置されていたり、それを検品や修理したりするために物流費の増加を招いています。アウトレットや催事などでも売上確保のために、無計画に移動出荷を繰り返すことで物流費増加の要因となっています。

物流現場で行われていることは、その企業の経営における無駄や非効率なことが現象となって表れていると感じます。特に在庫の持ち方については、販売管理システムなどを通して、数字で把握することはできるものの、実際に倉庫の中で現物を見ることで、より明確に在庫問題について気付くことができるのではないでしょうか。自分たちが売れると思って企画した商品がどのような状況になっているのか、アパレル商材は生鮮食品ほどではないですが、季節性やトレンドの移り変わりが早いため、なるべく迅速に対処方法を判断することで、消化率を上げることができるのではと思います。

部分最適から全体最適へ

上記にて「ロジスティクス」とは、調達から製造・保管・輸送・販売までのモノの流れだけでなく、これら供給における一連のプロセスを管理することだと記載いたしましたが、モノの流れが滞留している企業は、プロセスにおける分断が発生しています。その結果、在庫や無駄な作業が増えています。従来のように各部門や工程別でそれぞれが個別最適を進めるだけでは、諸費者のニーズが多様化し、先行きが見えない時代に対応できなくなってきています。その変化に気づいて、これまでのやり方や考え方そのものを見直している企業だけが生き残れるのではと感じています。

例えば、これまで企画・調達部門は、原価低減のため生産ロットを取りまとめなどに注力してきました。生産管理は商品品質の向上と納期管理を行い、営業は販売ロスを低減するため在庫確保や納品先の要望に応えてきました。経営企画室や財務部門も在庫は資産として利益勘定として捉え、売上拡大のためならと、在庫の増加や業務負荷をかけてきました。それぞれの部署だけに閉じた最適化を目指すことが、ロジスティクス全体であるサプライチェーンの分断に陥っている会社が多いのではないでしょうか。ほしい商品は欠品しているのに、売れない商品が倉庫に眠っていると感じている企業にはその傾向があるのではと思います。

アパレル商材は季節性があり、トレンドの移り変わりも早いため、需要を予測することも難しく、海外生産へのシフトも進んでいるため生産までのリードタイムもかかります。そのため、需要にあわせて供給をコントロールすることにより、限定的ではありますが、その状況の変化にいち早く気づき、対処することで倉庫に眠る在庫を減らすことができます。テクノロジーの進化によって、POSデータ含め、販売実績データを分析判断する時間は格段に速くなったのではないでしょうか。店舗とオンラインでの売れ筋商品の動向を掴みつつ、伸び悩んでいる商品や滞留している商品の対応はメディアの活用含め、販促を行う「販売力」を強化する。ユニクロのファーストリテイリングやAmazonでは消化状況を週単位やリアルタイムでとらえ、特売やクーポンなどで在庫を売り切る仕組みが構築されています。

物流現場からの気づき

冒頭に「経営者が物流現場に足を運ばない会社は危険」と書かせていただいたのは、物流倉庫を見るとその会社の販売戦略やロジスティクス戦略のギャップにおける問題を感じることができるため、経営層の方は倉庫に足を運んでいただきたいという思いからです。今回はロジスティクスにおけるサプライチェーンの分断から在庫の問題が発生していることについて触れましたが、店舗在庫とオンライン在庫をつなぎ、消費者に商品を届けるOMO戦略においても、倉庫在庫含め、店舗在庫とオンライン在庫が連携できていない問題や、BOPISと言われるオンライン決済の店舗受取など商品受取の多様化などが実現できていない問題は、販売管理システムやECカートシステム、受注管理システムと倉庫管理システムの連携に原因があります。

サプライチェーンが統合されることで、生産や仕入れ調達のムダが減り、経営の効率を高めます。同時に俊敏に市場変化を察知し、マーケティングや営業部門が対策を仕掛けることができ、売上の最大化と在庫含めた、経費の最小化を同時に進めることになります。

バーチャルにおける販売管理を中心とした各システムの統合とフィジカルにおける調達から販売におけるモノの流れであるサプライチェーンを統合することが、これからの時代を生き抜くには必要です。その状態を視覚的に気づく場所が商品のデリバリーの拠点である物流倉庫なのではと思います。自分たちが売れると思って企画し、仕入、製造した商品が今どのような状況にあるのか、サプライチェーン全体を俯瞰して在庫の問題から手をつけてみてはどうでしょうか。


執筆:小橋 重信
アパレル会社でブランドマネージャとして、商品MDから店舗運営などを行い、上場から倒産までを経験。SONY通信サービス事業部にてIT営業に関わる。その後3PL物流会社にて、センター長、マーケティング部執行役員として14年勤務。現在は、物流コンサルティング会社リンクスを起業し、企業の物流戦略の見直しや物流構築などの支援を行う。日本オムニチャネル協会SCM部会のリーダなどの講演活動やダイヤモンド社よりSCM本「メーカーの仕事」共著にて出版。
物流ノウハウとロジスティックスを語るYoutube「ロジカイギ」も運営。
https://www.youtube.com/channel/UCvEyxthN93-5XsBHT0_51zg

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