物流視点で考えるアパレルの課題 経営者が物流現場に足を運ばない会社は危険(前編)
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物流視点で考えるアパレルの課題 経営者が物流現場に足を運ばない会社は危険(前編)

“あなたの会社の社長、いつ倉庫に来ましたか?”
全世界が新型コロナウィルス感染症拡大のパンデミックから3年が経過しました。これにより生活は一変し、これまでの常識は通用しなくなりました。ファッション業界では、消費者ニーズの変化に対応できない企業は非常に厳しい状況に追い込まれています。ファッション業界が抱える4つの課題に対して、物流(ロジスティクス)の視点でどう乗り越えていくのか? その気づきを与えてくれるのが物流倉庫での在庫であり、そこからアパレル企業のサプライチェーンにおける統合が見えてきます。

ファッション業界の4つの課題

コロナ禍の中、ファッション業界が直面した4つの課題として一つ目が「ファッション×デジタル」です。従来は店舗を補完する立場であったオンライン販売がコロナ禍の中で拡大しました。そこでは、店舗で販売していた商品をインターネットで販売するだけでなく、SNSなどのデジタルを活用して消費者ニーズを掴んだところが急成長しています。そんなデジタル化が進む中で、2つ目の課題として「リアル店舗の再定義」です。ショールーミングやOMOなど、消費者が店舗に求める価値が変わってきています。店舗スタッフがSNSや動画などを使ってコーディネートを配信したり、インターネットで見た商品を店舗で取寄せて試着したりと、店舗とECの融合が始まっており、消費者の購買行動の変化と言えます。

それに対して生産者側も消費者の変化を捉えるだけでなく、生産体制の変化が求められています。これまでは前年踏襲で売上を確保するため仕入優先で発注を行い、売れなければ値引きをして消化を図る、値下げによる利益低減を防ぐため、製品原価を下げるといったサイクルが常態化し、その結果、人件費の安い生産地へのシフト、生産ロットによる大量発注となり、原価低減による商品の同質化や過剰在庫のリスクを抱えていました。

しかし、全世界を巻き込んだパンデミックはサプライチェーンの分断を引き起こし、商品の供給においても影響を巻き起こしました。コロナ禍で行動規制が敷かれる中、アパレル各社は先行きが見えないことも重なり、仕入を抑制し在庫が削減された企業も多いのではと思います。そこで3つ目の課題が「需給のギャップの解消」です。上記に記載したように、これまで在庫を多く抱え、値引きを繰り返していたアパレル各社が、需給のギャップを解消し、無駄な値引きをしないで商品を売り切ることができるのか、そのための在庫の持ち方含め、サプライチェーン全体を見直す必要があります。

そして、4つ目の課題が「2次流通(リセール市場)の拡大とサスティナブル」です。SDGsなどに代表される国際的な取組みとして、衣料の生産から販売、さらに着用から廃棄に至るまでの過程において、地球環境への負担を減らすことが注目されています。特にファッション業界における廃棄の問題は深刻です。メルカリなどの二次流通市場の拡大もこれまでの大量生産、大量廃棄の時代の終焉と言えます。今持っている服を長く大切に着ることや、リユースなどで再利用し、ファッションを楽しみことに消費者の価値観も変わってきているため、素材選びから製造及び、供給ラインもそれに合わせて変化する必要があります。

コロナ禍の中でも成長する企業

これまでファッション業界がコロナ禍の3年間でどのように変化してきたのかについて、4つの課題を取り上げてお伝えいたしましたが、いかがでしたでしょうか?このコラムはファッション業界で働く経営層の方に向けて書かせて頂いておりますが、ここまで読まれて、既に周知のことで、対策を仕掛けていると感じた方と、理解はしているがどこから手を付けていいのかわからない方、もしくは、自社の課題はもっと他にあると感じた方などいろいろいらっしゃるのではと思います。

著者は物流コンサルとして多くのファッション業界のアパレル企業を物流現場の裏側から見てきました。その経験から、ファッション業界が抱える4つの課題「①ファッション×デジタル」「②リアル店舗の再定義」「③需給ギャップの解消」「④2次流通(リセール市場)の拡大とサスティナブル」について上手くいっている企業、もしくは目標をもって対策を講じている企業は、経営層が物流に関心が高いと感じます。

ここでの「物流」は調達から製造・保管・輸送・販売までのモノの流れだけでなく、これら供給における一連のプロセスを管理する「ロジスティクス」のことを示しています。ロジスティクスの領域では、販売計画と仕入計画から在庫を管理します。在庫の適正化により在庫回転率が改善され、過剰在庫の発生を抑え、物流コストの削減と物流業務全体の効率化により無駄な物流コストを減らします。在庫三悪と言われる「不良在庫、過剰在庫、欠品在庫」の原因を招いているのは、物流(ロジスティクス)戦略に問題が発生している可能性があります。

①のデジタル化が進む中で、店舗在庫だけでなくオンライン在庫ともリアルタイムで連携し、お客様が欲しい商品を、お客様が欲しいタイミングで、受け取りたい場所に届けるには、店舗やECサイトの裏側で物流含め、バックヤードシステムの連携含めたデジタル化が肝になっています。②についても同様で、店舗スタッフがSNSなどを通して情報発信によるデジタル接客を物流含めた、バックヤードシステムが裏で支えています。

そして③の需給のギャップを解消するためには、需要予測や販売計画における供給プロセスをいかに迅速に、ムダ、ムラ、ムリなく供給プロセスを管理する必要があります。ZARAは供給プロセスの高速化による値引きや過剰在庫を抑制する仕組みは有名ですが、まさにロジスティクスの重要性や価値を理解して、それをグローバルに展開している勝ち組企業です。④についても商品の素材以外では、過剰在庫を減らすことで地球環境への負担を減らすことに繋がります。物流(ロジスティクス)が上手くいっている企業は、コロナ禍の中でも成長しているのではないでしょうか。

後編へ続く

本コラムでご紹介した前編をふまえ、後編では物流視点で考えるアパレルの課題について、さらに踏み込んでいきます。お楽しみに。


執筆:小橋 重信
アパレル会社でブランドマネージャとして、商品MDから店舗運営などを行い、上場から倒産までを経験。SONY通信サービス事業部にてIT営業に関わる。その後3PL物流会社にて、センター長、マーケティング部執行役員として14年勤務。現在は、物流コンサルティング会社リンクスを起業し、企業の物流戦略の見直しや物流構築などの支援を行う。日本オムニチャネル協会SCM部会のリーダなどの講演活動やダイヤモンド社よりSCM本「メーカーの仕事」共著にて出版。
物流ノウハウとロジスティックスを語るYoutube「ロジカイギ」も運営。
https://www.youtube.com/channel/UCvEyxthN93-5XsBHT0_51zg

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