アパレルECの現在地 最新課題と解決策を探る
本コラムでは2024年5月29日に開催された「ネットショップ担当者フォーラム春」での講演内容をご紹介していきます。
コロナ禍を経て大きく変化したアパレル業界。特に実店舗とECを運営する企業は、テクノロジーや消費行動の急速な変化に対応する必要がありました。今回は、繊維・ファッション業界紙『繊研新聞』で30年以上にわたり取材し、アパレル業界に関わってきた窪田勉氏と共に、アパレル業界の最新動向と、事業者が直面しているEC運営の課題と解決策についてお話していきます。
INDEX
アパレルEC業界に訪れた変化とは?
AMS 古田俊雄氏(以下、古田):2024年に発行された『繊研新聞』の「ネットコミュニケーション特集号」を基に、アパレルEC業界の課題について議論しましょう。最近、特に話題になっている課題は何でしょうか?
繊研新聞 窪田勉氏(以下、窪田):2024年に入って特に顕著になっている課題は2つあります。まず1つ目は、ECを含めたオペレーションの課題です。コロナ禍ではECにシフトしていた企業も多かったですが、2024年には実店舗への来店が増え、店頭業務が増加しています。これにより、人材の配置が課題となっています。
もう1つはデータ活用の問題です。顧客データをどのように活用して、CRMに繋げるかが重要なテーマです。古い基幹システムを使い続けている企業では、新しいシステムへの移行に際し、コストや改修の問題が生じることがあります。これが投資のターニングポイントになることが多いです。
古田:2023年と比べて明らかに変化が見られる課題はありますか?
窪田:以前は新規顧客の獲得に重点が置かれていましたが、最近では既存顧客のLTV(顧客生涯価値)を上げることが主流になっています。誰が何をいつ購入したのかを分析し、それを基に施策を展開する必要が高まっています。
CRMと個客マーケティングの重要性
古田:アパレルEC業界の課題トップ3の1位に挙がっている「CRMや個客マーケティング」についてですが、どのように感じていますか?
窪田:多くの企業がCRMや個客マーケティングに取り組んでいますが、正しい方向に進んでいるのか、他に良い方法があるのかと試行錯誤しています。特に、どのデータをどう活用すべきかについては多くの企業が悩んでいる状況です。EC業界全体で、デジタル知識を持つ人材の育成が急務となっています。
古田:ライブ配信やライブコマースについてはいかがですか?
窪田:ライブ配信やスタイリング投稿は、顧客との接点を増やし、売り上げを伸ばす可能性のある重要なコンテンツです。そのため、たとえ店舗で売れる人材を起用したくても、撮影場所の確保が難しかったり、時間が限られていたり、勤務地やシフトの問題があるため、調整が非常に困難です。その中でも、例えば、アルページュはライブ配信ができるスタジオ付きの店舗を設け、週30本以上の配信を行っています。このような取り組みが課題解決に寄与しています。
ロイヤリティプログラムの新しい潮流
古田:最近、ロイヤリティプログラムの話題が増えていますが、どのように変わってきていますか?
窪田:ロイヤリティプログラムは、2回目、3回目の購入を促進するための重要な施策です。多くのアパレル企業が、体験を通じてポイントを付与する新しいロイヤリティプログラムを導入しています。例えば、アダストリアでは店頭でQRコードを読み込むとポイントが付与される仕組みがあります。
古田:購買以外のアクションに対してもインセンティブが提供されているのですね。
窪田:そうですね。例えば「アクシーズファム」を展開するIGAは、創業地を巡るツアーを開催するなど、新たな顧客体験を通じてブランドロイヤリティを高める取り組みを行っています。
ECサイトの設計と導線改善
古田:2位に挙がっている「ECサイトの設計・導線改善」について、どのように取り組んでいるのでしょうか?
窪田:ECサイトの設計や導線改善は、一見地味ですが非常に重要です。特に動画コンテンツの増加に伴い、サイトの表示速度やユーザー体験に大きな影響を与える要因となっています。
古田:以前は、動画の自動再生が通信容量を多く消費するため、顧客にとってはマイナスだと言われていました。しかし、最近では動画の自動再生が良い顧客体験とされるようになり、それに合わせて仕様を変更するサイトが増えています。このようなトレンドや顧客のニーズの変化には迅速かつ継続的に対応していくことが求められています。
窪田:このような課題を解決するためには、信頼できるパートナー企業との協力が欠かせません。だからこそ、自社に合わせたサイトの設計や導線改善を手がけるパートナーをどう選ぶのかは、非常に重要な判断になると思います。
物流と配送の効率化が求められる理由
古田:「物流配送の整備」という課題が2023年と比較して上位に来ていますが、その背景は何でしょうか?
窪田:この1年、大手アパレル企業も次々と物流拠点や倉庫を変えています。物流配送の整備が重要視されているのは、効率化が求められているからです。配送費の上昇に対応するために、倉庫でのロボット導入やBtoBとBtoCの集約などの取り組みが進んでいます。
古田:中小企業でも取り組みが進んでいるのですか?
窪田:はい、データ連携が進むことで、中小企業でも施策を打ちやすくなるでしょう。大きな倉庫を借りるのではなく、棚貸しやスペース貸し、商業施設における共同配送などを利用した物流の効率化が進んでいます。
人材育成と採用の課題
古田:アンケート結果で3位に挙がっている「EC関連の人材育成と採用」について、どのように捉えていますか?
窪田:ECで必要な取り組みが増えたため、デジタル施策ができる人材の確保や、OMOに向けた組織変更が進んでいる企業もあり、これらが大きな課題として浮上してきているようです。そのため、人手不足を補うために、外部に業務を依頼する企業が増えていると聞いています。しかし、デジタルやデータに詳しいだけのコンサルタントでは、ECの理解が不十分なことがあります。また、EC担当者は多くの業務を抱えており、相談相手がいないことがよくあります。そのため、適切な人材を確保するだけでなく、実際に伴走して支援してくれるパートナーや、専門的な知識を持つパートナーを選ぶことが重要です。
パートナー選びが未来を決める
古田:今後のアパレルECにおけるキーワードは何だと考えますか?
窪田:OMO(オンラインとオフラインの統合)は今や基本的な施策となっています。顧客体験を向上させるためには、会員データの統合などに投資することが重要です。さらに、物流やAIの活用といった課題についても、自社の目指す方向をしっかり考える必要があります。そのためにも自社に合ったパートナーを選び、一緒に成長していくことが重要です。